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藍染に宿る、日本の知恵と技

藍染に宿る、日本の知恵と技

見えてきた「藍」という色──文化を染めるということ

日本での暮らしの中で、改めて気づかされることがたくさんあります。
先人たちの知恵や手仕事の美しさ。日常に自然と溶け込んでいながら、時には忘れ去られてしまった伝統。
近頃では、その価値を見つめ直し、新たな形で受け継ごうとする若い世代の姿も目にするようになりました。

そんな中、私の心を深くとらえたのが「藍染」でした。

ご縁に導かれ、愛知県豊橋市の本藍染工房 Aihiraco さんを訪れ、藍染の奥深さに触れる体験をさせていただきました。

藍がつむぐ、日本の美

藍染とは、植物染料「藍」を用いた染色技法。藍で染められた布のことを、藍染と呼びます。

日本では奈良時代ごろに始まり、約1300年もの歴史があるとされています。
そのルーツはさらに古く、中国では紀元前2000年頃から、また古代エジプトでは紀元前2500年頃のミイラの布に藍染の痕跡があるとも。
日本には中国や朝鮮半島から伝わり、当初は貴族や宮廷で使われていたといいます。

今では「ジャパン・ブルー」と称されるようになりましたが、戦国時代には濃い藍色が「褐色(かちいろ)」→「勝ち色」とも呼ばれ、武士たちの縁起担ぎとして広まりました。
また、藍には抗菌・防臭・防虫・止血の作用があるとされ、藍染の肌着は武士たちの間でも重宝されたそうです。

この藍を生み出す植物は地域によって異なり、日本では「タデアイ」、中国では「大青」、他にも琉球藍やインド藍などがあります。

日本では、タデアイの葉を乾燥・発酵・熟成させた染料「蒅(すくも)」を、灰汁と水で発酵させて「藍液」を作ります。この工程を「建てる」と呼びます。

藍液に糸や布を丁寧に浸し、空気に触れさせると、ワカメのような黄色土色が、次第に藍色へと変化します。
この工程を何度も繰り返すことで、独特の深みを持った色が布に染み込んでいくのです。

手前が藍植物 タデアイから作られた蒅(スクモ)



発酵が導く、静けさとつながり

工房に足を踏み入れたとき、ふと酒蔵を訪れた時の感覚が蘇りました。
(私は、酒のソムリエでもあります)

発酵を重ねて生まれる藍液。その「建てる」工程が、日本酒や焼酎、ビールづくりとも重なり合って感じられたのです。
発酵という、日本に根づく文化。その営みは、人の暮らし、食、そして自然とのつながりを静かに物語っています。

藍液にそっと手を入れると、まだ発酵を続けている液はほんのり温かく、植物の芳香がふわりと鼻を抜けていく。
ぷくぷくと泡を立てながら、生きている藍に触れるその時間は、まるで「無」になり、心が「静」になっていくようでした。

 

手染めの布に込めた想い

私が染めた藍の手ぬぐいは、今、別の形へと姿を変えようとしています。
身につけるアイテムとして、新たなデザインを練っているところです。

地元・愛知で出会った日本の文化──
必ずもう一度この地を訪れ、次のプロジェクトへとつなげていきたいと思っています。

本藍染工房 アイヒラコ
Aihiraco

場所:愛知県豊橋市

写真のこの藍の色は、四度目の染めで、理想通りの深く静かな色に仕上がりました。