秋の訪れを告げるトンボがようやく飛び出した10月上旬。
天気予報では、台風の影響で全国的に不安定な空模様が伝えられていた。
その声をラジオで聞きながら、すでにいっぱいのスーツケースに長靴を押し込む。
この場所には、晴れていても、雨でも、思う存分に歩き回りたいと思ったから。
朝一番の電車で東京へ向かう。
公共交通機関だけでも行けるが、今回はあえて東京からレンタカーを借りた。
一度は渡ってみたかった東京湾アクアライン、そして海の上に浮かぶ「海ほたる」サービスエリア。木更津市へ入る最短ルートでもある。
品川から車で約1時間半。思ったよりもシンプルな道のりは、朝からの緊張をやわらげてくれた。
千葉県木更津市に広がるこの場所は、ap bank がコンセプトプロデュースする「kurkku」プロジェクトの一環。
“食”や“モノ”の消費を通して、「快適で、環境にもやさしい未来の暮らし」を考えることを目的としている。
広大な土地を開拓し、かつての日本人が持っていた“食から暮らしへの循環”を体験できる場所だ。
雨で湿度の高い名古屋を出発し、この地に到着したのは午後1時。
怪しかった空は、晴れ女の移動を追いかけるように青空を広げてくれた。
気温は予想外の30度超え。念のために持ってきた長靴に履き替え、受付でチェックインを済ませる。
この訪問は、長く楽しみにしていた Tiny House 宿泊 と、13年の歳月をかけて育まれた Kurkku Fields の歩み を体感する旅。
長靴を履き、カメラを肩に、水筒をぶら下げて歩き出す。
受付に貼られたその日のワークショップのメニューに目をやると、ひときわ目を引いたのは『草木染め』。
迷わず申し込みを済ませ、まずは腹ごしらえに向かう。

味わう、自然の循環
敷地内には食をテーマにしたスポットがいくつもあり、どれも魅力的すぎて選ぶのが難しい。
時間も限られていたため、デリでここで獲れたジビエ(イノシシ)バーガーをいただくことにした。
登録ハンターが捕らえたばかりの新鮮なジビエが、厳しい衛生管理のもと、その日にキッチンへと運ばれる。
いただける分だけを調理し、無駄のない食の循環を体現している。
背中をつたう汗を感じながら、週末に訪れた家族連れや、自由に走り回る子どもたちを眺める。
その光景に、自然と人の豊かな調和を感じる。

歩いて感じる、命の循環
食事を終え、右回りか左回りかを少し迷って歩き出す。
灼熱の太陽が肌を照りつけ、満タンにしてきた水筒の水も底をついた。
ここにはいくつもの給水スポットがあり、プラスチックなどリサイクル不可能なものの持ち込みは禁止されている。
土に還らないゴミ箱は存在せず、マーケットで販売されているのも環境に配慮したアイテムばかり。
耳を澄ませると、水のせせらぎが聞こえる。
ここの水はすべて、雨水や湧水を巡回・濾過して再利用されたもの。
電力はソーラーパネルによってまかなわれ、余剰電力は市へ売電されている。
家畜はミルクやチーズ、ヨーグルトを生み出し、野菜は太陽と雨、家畜由来のコンポストから栄養を得て育つ。
こうして農薬や殺菌剤を使わずに生まれた作物が、施設内のレストランやベーカリーに届けられる。まさに「命の循環」が息づく場所だ。
草木染めワークショップ
広大な敷地を一周しきる前に、申し込んでいたワークショップの時間がやってきた。
スタッフとともに自生する植物を摘みに歩きながら、どんな色に染まるのかを想像する。
今回の素材は アカメガシワ。
アカメガシワは、日本各地に自生する生命力あふれる木。
コンクリートの隙間からも芽を出し、やがて10メートルを超えるほどに育つ。
湿った土地を好みながらも乾いた地でも力強く根を張る姿は、自然のたくましさとしなやかさを教えてくれる。
茎が赤いのは、太陽や虫から身を守るために含まれるアントシアニンという天然色素の働きだという。
容器いっぱいの葉を集め、小さくちぎって沸騰した鍋へ。
何度もお湯と冷水を行き来しながら、好みの色が重なるまで作業を繰り返す。
最後にミョウバンで色を定着させ、輪ゴムで絞った模様を広げる。
「この布も、自然の循環の一部になれたらいいな」と思いながら。
染め上がったハンカチは、午後の日差しのようなやわらかな橙色。
ちょうど吹き抜けた風が、絞りたての布を揺らし、心地よく乾かしてくれた。



さあ、Tiny Houseにチェックインして、
BBQまでのひととき、風の音とビールを楽しもう。
——続く。

ap bankとは
音楽家の小林武史氏、櫻井和寿氏、坂本龍一氏の3名が出資して2003年に設立。
専門家を招いた環境問題の勉強会から始まり、「サステナブル」を軸に、
自然エネルギー支援、環境保全への融資、東日本大震災の復興支援、
さらに野外音楽イベント「ap bank fes」など、多方面に活動を広げている。
“ap”は “Artists’ Power” そして “Alternative Power” の略。
アーティストの力と、もうひとつの選択肢としての力を意味している。
